十六夜ロック・カスタム カノウさんの屈辱

十六夜ロック・カスタム

ケル鯖にて、ぼっちだったりペアだったりで基本ひっそりと遊んでいた思い出の日記帳
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カノウさんの屈辱

 眼前に広がるのは視界を埋めつくさんとするばかりの数の、悪魔たちの群れだった。


 一体一体はそんなに強いヤツらじゃない。むしろやられ役のモブとして良く使われる雑魚悪魔と言えるだろう。
 何せ見るからに貧弱で、一般人に毛が生えた程度の低レベルなデビルバスターにだって倒せるくらいなのだ。もちろん何の戦闘訓練も受けていない一般人が対等に戦えるような存在でもないのだが……でなければデビルバスターが何の為に存在しているんだかわからない……悪魔と言っても、何から何まで人間より圧倒的に強いというわけでもなかった。

 だが、群れを成せば話は全然別だ。
 数の多さはただそれだけでも力になる。烏合の衆だろうと相手取れば体力は削られるし装備品だって激しく傷む。えてして群れを成して襲ってくる奴らはこちらの疲弊を狙っているのだから当然の話だろう。
 そして絶望に弱り果てた体にその鋭い爪や牙を突き立てる。

 奴らも言われる間でもなくそのつもりだった……はずだ。



 眼前に広がるのは視界を埋めつくさんとするばかりの数の、悪魔たちの死体の山だった。

「ハッ……。ハハッ……」

 残念なことに俺の手柄じゃない。
 しかし俺の体は歓喜に打ち震えた。

 自らの背丈よりも大きい悪魔を従えた一人の男。
 奴……彼は突然現れるなり獅子の頭を持つ、褐色の肌をした悪魔の力を意のままに操って周囲の悪魔を屠り始めた。
 わずかな時間、それはまさに一方的な虐殺だった。
と同時に、俺の心を激しく揺さぶるには十分すぎる長い時間でもあったのだ。

 殲滅を終えた彼は、現れた時と同じ唐突さで姿を消した。
 噂には聞いていたA級ライセンスを持つデビルバスターであれば当然のことなのだろう。雑魚狩りの為だけに新宿バベルから派遣されたのなら、こんなところに長居をする理由がない。俺だって彼の立場であれば同じ行動を取る。

「今の見たかい、カノウ? すごい悪魔だったね」

 彼が消えてどれくらい経った頃だろうか。
 俺の視界の隅に入っていた、A級デビルバスターの能力に気圧されてポカンと口を開けたマヌケ面を晒すだけだったヤマグチがわずかに興奮を帯びた声色で話しかけてくる。
 見たも何も、あんな目の前で繰り広げられた出来事に気がつかない奴なんかいるのか。
 全く、これだからお前はおめでたいと言うのだ。




 ナカノオベリスクでの一件後、あの光景が脳裏に焼き付いて離れないでいる。
 デビルバスターだけが利用できる端末から得た情報によると、あのデビルバスターはこのトウキョウの中枢を担う新宿バベルを統制する不動の山本長官直属のエリート・ミカナギと言い、暴力的なまでの力を揮った悪魔は邪神に属するパズスと言う悪魔らしい。
 さらにパズスを制御できるであろうと見られるレベルは八十二とされており、ということはどう少なく見積もってもミカナギ自身のレベルも八十二以上はあるということだ。

 レベル八十二。

 途方もない数字である。これが第三ホームでくすぶっているデビルバスターと、ごく一部の選ばれしデビルバスターの差なのだろうか。
 そういえば、俺も含めてほとんどのデビルバスターは支給されたプロテクターを身に着けているが、ミカナギは違っていた。ちょっとそこの薬局にでも買い物に行くかのような非常にラフな服装だった。
 それもひとえに、絶対的な力量を持つが故の自信が成せる業なのだろう。職業柄すぐ汚れて洗濯が大変そうだが、エリートはそんなこともまるで気にしないに違いない。いちいち洗濯などせず、気兼ねなく着替えられるように全く同じ服を何着も所持している可能性もある。

 エリートたりうる実力とそれがもたらす環境に思いを巡らせ、俺は普段のテリトリーにしている第三ホーム防具屋付近の壁の窪みで決意に拳を固く握った。
 遠目にうっすらと見える中央のターミナルでは相変わらずヤマグチが、仲魔のプリンシパリティを従えボケーッと突っ立っている。以前、新人のデビルバスター共からターミナルを利用する際に邪魔だと苦情が出まくったせいで微妙にポジションを変えたようだが、まだ邪魔なことには気がついていないらしい。つくづくおめでたい奴だ。
 だが、俺がミカナギのように実力でのし上がった後は第三ホームを拠点にすることもなくなるだろう。

 あばよヤマグチ……。

 そう思うと、ほんの少しだけだが奴がターミナル横に立っていることも何となく許せるような気がした。
 まあ今はそれこそヤマグチの野郎のことはどうでもいい。
 久し振りにバーチャルルームで自主的に訓練を積んで今後に備えるとしよう。

 俺は左腕に装着したCOMPに手をかけ……仲魔を召喚しようとした手が止まる。

 ああ、そうだった。


 俺のCOMPには、仲魔が一体も入っていない。

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